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優れた楽器は良い音がするのか?また、優れたオーディオ装置は良い音がするのか? 中川 伸

 上のタイトルの答えは半分が合っていて、半分は間違っていると言えそうです。音楽は人間の感情や印象を音のイメージとして表現した芸術です。平たく言えば喜怒哀楽を音で表現することとも言えます。さて私はヴァイオリンやソプラノが特に好きなので、この種のコンサートには結構行きます。中澤きみ子さんが弾くストラディヴァリウスで、とても印象的だったのは、曲は忘れましたが、最初はものすごく甘くて優しい音を出しながら、最後はとても輝かしくて鮮やかな音を出したのがありました。その最初の音は、ものすごく駒から離れたところを弓で擦っていたのです。多分、8cm〜10cm位に見えました。この技法をスルタストといいます。スルはイタリア語で〜の上、タストは指板なので、黒い指板の上に達するほどに駒から離れた部分を弓で弾くことを意味します。逆に駒に近い方を弾くと鮮やかで鋭く、また、激しい音になります。演奏家はこういった技法を使い分けながら多彩な音色を出すことでイメージを表現しているのです。
 自分が持っているヴァイオリンでもスルタストを試してみました。チェロは何年か習っていたので、アイネ・クライネ・ナハトムジーク程度が、ヴァイオリンは簡単なキラキラ星や荒城の月程度なら弾けます。ちなみにコレルリのラ・フォリアは16小節で止まっています。チェロにはエンドピンがあり、足と胸で容易に支えられますが、より音が好きなヴァイオリンは、体はねじるし、安定に支えるのが難しく思えます。左手のポジションが顔に寄る時は安心ですが、離れる時は楽器を落とさないかと不安になります。
 さて、駒に近い方の音はすぐに出せるのですが、スルタストはかすれてどうしても出てくれません。ある時にコンサートマスターの安田紀生子さんにこのことを話したら、「スルタストは優れた楽器じゃないとなかなか出ないんです。また、ストラディヴァリウスはとっても出しやすいんです。」といっていました。さすが名器たるゆえんです。
 つまり演奏家が思った通りのイメージを雄弁に表現してくれる楽器こそが、優れた楽器ということになります。単に耳あたりのよい音だけでなく、時にはきつくて神経を逆撫でするような音さえも出せるような、あくまでも表現力の幅が必要だということであって、決して特有の音色を意味してはいないのです。この表現力の幅こそが、オーディオ装置の良し悪しを論ずるに当たっても、きわめて重要だといえます。というのは、人間の感情や印象を音のイメージとして表現した芸術の「再生機器」だからです。
 暖色系にみえるようなフィルターは青味を落とすからで、青味がかって見えるのは赤味を抑えるからです。表現力の幅を得るためには、色付けを抑えるよう、フィデリックスでは原音比較法でできる限り透明にするよう心がけています。つまり、窓ガラスはできるだけ透明で、かつ広いほうが何かと反応が良く、表現の幅も当然ながら広くなるという考えです。
 以前にも書きましたが、装置を悪くして行くと、もうどうでも良いBGM的な音になって、反応もしなくなって行きます。私はシンセサイザ音楽を聴くとすぐに退屈してしまいがちです。なぜかといえば音色の変化に乏しく、テンポ・ルバートの無い機械的なリズムや、クレッシェンド、デクレッシェンドといった抑揚に乏しく、また、ポルタメントも無く、とにかく表現の幅が少なくて無表情だからです。根気良く操作すれば可能なのでしょうが、残念なことに殆どは手抜きで作っています。つまり、私にとっては表現力の幅こそが、きわめて重要なテーマといえます。
 なお、名器と言われる楽器はすぐには反応してくれなくて、寝起きが悪いということを何人かの演奏家から聞きました。そういえば、ギトリスがトリフォニーホールで弾いたストラディヴァリウスも、リハーサルはしていたのでしょうが、それでも15分位は寝起きが悪そうでした。2009年7月5日

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