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掘り出し物のヴァイオリン 中川 伸

 私はリサイクルショップを回って、古くて懐かしいオーディオ機器を探すのが好きです。稀に思わぬ珍品が見つかったりするからです。壊れていても殆どは自分で直せます。あるとき、古いヴァイオリンを見つけました。埃はかぶり、弦は切れ、駒は落ちて、弓の毛は僅かしかない状態で、ケースまでも綻んでいました。しかし、ボディーを叩いてみると、なかなか軽やかで明るい響きがします。もしかすると、自分が持っているヴァイオリンよりも良さそうに思ったので、多分、2000円位で買いました。もしも価値有るものであったなら、それが理解される人の手に渡った方が楽器にとっては幸せです。1980年代前半に私はチェロ、子供がヴァイオリンを習っていて、大きくなったら必要になると思い、フルサイズのヴァイオリンも買ってあり、それで簡単な曲を弾いては遊んでいました。(写真中央は1980年頃の中川 伸)

 持ち帰って、掃除をし、弦を張り、駒を立てたりして調弦をしました。私が丁寧に手を掛けたせいもあって、20万円で買ってあったものよりは明らかに良い音がしました。すっかり気を良くしていたら、たまたま、知り合いのヴァイオリニストであるアテフ・ハリムさんのMacがおかしくなって立ち上がらなくなったとのこと。そこでMacに詳しいオーディオ仲間のスティーグ・ビョルゲさんと二人でHDD内の重要データーの救出に出向きました。うまく救出はできたのですが、その時に、ついでにヴァイオリンも持っていって、どの程度の品なのかみてもらいました。弦をはじいて「うーん!悪くない!」と言い、本格的に調弦して、荒城の月を弾き、またしても「うん!悪くない!」と言いました。そこで、いくら位ですか?と言ったら、「うーん?」といっていたので「50万円ですか?」といったら「30万円!」と答えました。
 そのあとストラディヴァリウスの黄金期である1713年製でバッハのシャコンヌを弾いてくれました。1.5mの至近距離でスティーグ・ビョルゲさんと二人だけで聴いたのですから大変な贅沢をさせて頂きました。弓はフランス製で600万円とのことでしたが、ヴァイオリンは多分、数億円以上はするでしょう。直後にフランス製のヴァイオリンでも弾いてくれました。ストラディヴァリウスの浸透力ある輝かしい音に対して、こちらはふっくらとしてなんとも上品で甘い音がしました。私が持っていったヴァイオリンでもシャコンヌの冒頭を弾いてもらいました。名器達にはさすがに及びませんが価格差からすればずいぶんと健闘をしていたように私には聴こえました。
 その後、名器ゴフリラ(チェロではカザルスやアンナ・ピルスマやジャクリーヌ・デュ・プレが使っていたので有名)を愛用し、コンサート・マスターでもある安田紀生子さんと、リコーダー奏者である向江昭雅氏とのデュエット演奏後に、ずうずうしくもこの古いヴァイオリンを弾いて頂きました(2006年3月31日)。そしたら、15万円位で売られているものよりは明らかに良く鳴るとのことでした。そこで30万円ですか?と聞いたら、「うーんそこまではどうでしょうね?パワーは無いから、、。」との返事でした。結局、総合的には25万円くらいでしょうか?いずれにせよ思わぬ掘り出し物であることには間違いありません。(写真は古いヴァイオリンを気持ち良く弾いて下さっている安田紀生子さん)

 実はヴァイオリン内部の魂柱が斜めに付いてしまっているので、冶具を作って直せばパワーが出て、50万円以上になるかも知れません。このヴァイオリンは写真のように中心が濃く塗ってあって珍しいようです。また、あご当ての形状や飾りも珍しいようです。内部にはシールが張ってあって、大日本家庭音楽会 東京支部 神田区 須田町 壱番地と書いてあり、どこかの備品だったようです。会と区は古い字で、ずいぶん使い込まれていました。おそらく90年位前のものだと思いますが、ご存知の方がいらっしゃいましたならご一報いただければ幸いです。今、安田さんに私の弾けそうな曲を選んで貰っていますが、これを機会にグルックのメロディーあたりの曲が弾けるようにがんばってみようと思った次第です。ヴィタリのシャコンヌはちょっと無理そうに思えましたので、、。なお、もっと無理なことは充分に承知の上でバッハのシャコンヌは如何ですかと安田さんに訊ねたら「とても無理!」と言われました。物事は思い切り背伸びをしてようやく届きそうなあたりが面白いです。
 余談ですが、30年ほどまえに、近所の古道具屋さんの所へ、価値のありそうな絵が舞い込んできて、鑑定してもらったら1500万円なので、すぐに売って家を買ったそうで、まれにはこんな良いこともあるそうです。皆さんも古道具屋を回れば、価値あるヴィンテージものに出会うかも知れません。なお、ストラディヴァリは働き者でたくさんのヴァイオリンを作ったそうですが、ガルネリはそんなにたくさんは作りませんでした。そのため、市場原理からすればガルネリウスの方が高いそうです。高嶋ちさ子氏はストラディヴァリウスを所有していますが、「ガルネリウスは高くて買えないから。」と言っていたそうな。ゴフリラはどちらかといえばガルネリウスに似たタイプなので、ストラディヴァリウスよりも低音は出るそうです。皆さんも機会を見つけては、名器の生音を聴き比べてみれば如何でしょうか?(写真左は約20万円で買ってあったもの。右は約2000円で買ったそれより音が良いと思える古いもの。)

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