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「トーンアーム」や「0 SideForce」 のインサイドフォースについて 中川 伸

トーンアームのインサイドフォースについては正しく理解していない人があまりにも多いので、実は驚いています。また頭の良い人ほど高度に考え、たまたま早とちりをして、それを一旦、思い込んでしまうと、なかなか抜け出せないようです。そこで、ガリレオがピザの斜塔から重いものと軽いものを同時に落としたかのように実験をしてみました。使った機材はFR-64SとSHUREのM44Gで、インサイドフォースキャンセラーは当然ながら使っていません。 針の動きを20倍のクローズアップレンズを付けたiPhone8plusにて近接撮影をしました。

さてここからが問題です。下ろした針先は(1)内側に曲がるでしょうか?(2)外側に曲がるでしょうか?(3)それとも変わらないでしょうか?ではよーく考えてみて下さい。レコード溝の接線方向と針の向きはほぼ同じなので変わらないと思う人はいるでしょう。また、溝は内側に進みアームも内側に進むことからして、内側に引っ張られると直感的に思う人もいるでしょう。まずは実際の動画を見てみましょう。YouTubeでの動画

動画を注意深く見れば、針は明らかに外側に移動して、これこそが内側の針圧が高くなるというインサイドフォースの証拠でもあります。カメラがローアングル過ぎてレコード盤との擦れ音が入っているのはご愛嬌です。インサイドフォースの原因はシンプルに考えれば間違えません。レコード回転による摩擦力によって、くの字に曲がったものが引っ張られ、直線へ近づこうとし、結果、カンチレバーが外へ向くだけのことです。アーム自身は自由に水平回転をするので、内向きの力も、外向きの力も加えることはできません。針先が前方へ進まないようアームはただただ自身の支点方向へ引っ張っていて、この力と針の摩擦力による引っ張り力とが釣り合っているだけです。

インサイドフォース現象に着目したのは、多分、SMEが最初だと思います。軽針圧にこだわっていたSMEはアームへ外向きの力を加えることによって、外壁の針圧を増しながら内壁の針圧は下げ、針圧のバランスを取ることによって、より軽針圧化を目指しました。インサイドフォースキャンセラーを使って左右の針圧差を無くせばカンチレバーは外にも内にも向かないので、この理屈はこれで合っています。実際に、オルソニックから、インサイドフォースの調整用として、針へ加わる横向きの力を示すグッズ(下方に写真)が売られていて、私はそれを使って確認もしていました。

そして針を前方に強く引っ張れば、より直線になろうとして、針先位置はさらに前方へ移動しながらカンチレバーはより外側へ曲がるのです。つまり、カンチレバーの支点はこの意図しない弾性によって支えられているという認識こそが実は非常に重要です。音の大小は溝の抵抗の大小となり、針先の位置がこれによって前後するので、時間軸が変調され、アタック音が緩むのは盲点ともいえる問題です。時間軸の重要性は、DAコンバーターにてクロックの質が重要な事でも実証されております。

この動作を示す模型での動画をYouTubeにoffset tonearmとしてアップしましたが、それでもなお理解ができない人はいるようです。因みにYouTubeで「中川伸」で検索すればいくつかの動画が見つかると思います(オーディオとエレクトロニクス以外は同姓同名の別人です)。関心を持たれましたなら、チャンネル登録をお願い致します。

一方、ピュアストレートアームは伸びきった状態なので、伸び縮みする余地は無く、左右の針圧差も生じません。もしも針圧差が生じてカンチレバーに横向きの力が加わったとしても、アームが水平に動いて逃げるので、カンチレバーが左右に曲がることはありません。これが「0 SideForce」の由来です。ピュアストレートの模型によるyoutebeでのpure straight tonearmとしての動画ですが、あまりにも安定していてるので注意深く見ないと静止画にしか見えず、動画としては意味不明でしょう。このように簡単な理屈で発生するインサイドフォースですが、ベクトルなどを使って難しく考えると、返って迷路に入り込んでしまいます。

さて、ここでトラッキングエラーについての事実です。従来のアームはトラッキングエラーを少なくすることが第一なので、角度を付けています。多くの設計は35%位進んだ点と最内周直前の2点で0度になります。ところが、私の長年におけるレコード再生にて、この0度のポイントで音が良くなった経験はありません。音が最も良いのは最外周で、トラッキングエラーが実は最大の点です。また、音が最も悪いのは最内周で、これまたトラッキングエラーが最少の点です。つまり、トラッキングエラーとは逆の結果なので、トラッキングエラーは線速度と比べればずっと軽微な問題でしかないのです。最近になって作られた78回転のLPレコードを早稲田大学の1ビット研究会で33回転と聴き比べましたが、何の問題もなく、ただただ良かったです。

フィデリックスでアームを製品化する際に曲がったオフセットアームと、ピアストレートアームの2モデルを作ってユーザに選択してもらうつもりでしたが、実際に作って聴き比べると、曲がったアームを作る意味は無いことを確信しました。アームを曲げることによって前述の意図しない弾性サポートとなって時間軸変調が発生し、アタック音が緩む色付けが想像以上に大きいことに気付いたからです。ただ、曲がったアームは、いかにもアナログ的で、甘く膨らむ味として聴こえるので、好きな人も居ることでしょう。ピュアストレートアームの揺るぎない構築感と鮮明な浸透力とは聴き比べてみる意味があるかと思います。この音の違いがネット経由だと、どれほどに理解されるかは分かりませんが、以前にWAVファイルとしてアップしていました。ここで使った音源は著作権の切れたものから選んでいるので、偏芯や反りはご了承ください。

0 SideForceの音はTo me 0side 1GL、FR-64Sの音はTo me 64S 1GL、Z Shellの音はTo me 64S+Z shell 1GL
因みに、溝の無いレコードやLDを掛けて、横に滑るスケーティングフォースは、インサイドフォースとは似て非なるものなので、オーディオ的には無意味です。このスケーティングフォースを持ち出せば、当然ながらほぼ間違った結果になります。よく言われているLDで横滑りしないように調整するというのは、そもそも根本原因である摩擦力がかなり異なります。というのは硬くて平らなLDは1点での接触になります。しかしV溝のレコードは2点で挟まれた接触になり、しかも柔らかいビニールなので少し凹みながら滑ります。このため摩擦力は大きくなるのでインサイドフォースの量はLDでのスケーティングフォースよりも大きくなります。レコードで正しくインサイドフォースを合わせれば、LDでは外に滑る筈です。

あるカートリッジメーカーの技術者から聞いた話ですが、インサイドフォースキャンセラーを使わずに使っていたカートリッジを顕微鏡で調べると針の内側だけが減っているのはまま見られるそうです。それから、ネットで見受けられる話ですが、インサイドフォースキャンセラー無しで長く使っているとがカンチレバーが外向きになってしまうというのです。 私は気が付かなかったのですが、ありえない話ではないと思います。もしかするとインサイドフォースをチェック可能なグッズを販売することになるかも知れません。かっては少しだけ販売されていましたが、多くの勘違いを改めるのと、カートリッジを長持ちさせるには必要なものかなとも思っています。 あくまでもマーケティングの結果次第ですが、、。

リニアトラッキングは実に夢の多い構造ですが、これも意図しない弾性サポートが生じ易い構造になるので、トラッキングエラーとのどちらを優先するかに尽きるでしょう。頭と目を優先してリニアトラッキングにするのか、耳を優先して、剛体サポートにするかでしょう。かのウェスタンエレクトリックはアンダーハングでのピュアストレートアームしか作らなかったのはさすがです。また、1982年頃に、ピュアストレートアームを提唱し、以降は曲がったオフセットアームに関心を示さなかった江川三郎氏もさすがです。

ヘッドシェルのMITCHAKU Zは曲がったアームをまっすぐに修正すると同時に、約60%進んだポイントでトラッキングエラーが0°になるようアンダーハングが可能な形状になっています。簡易的にピュアストレートアームの良さを体験できるヘッドシェルとして企画しましたが、実は、この評判がとっても良くて、密着シリーズの中で、今、最も売れているヘッドシェルです。

0 SideForceやMITCHAKU-Zのスケーティングフォースはこの半径90mmの点で0になります。ここより外に置けば内に向かい、内に置けば外に向かって半径90mmの位置に集まります。でもサイドフォースはどこでも0になるので、これが似て非なる理由です。ちなみにオフセットアームはどこに置いても内に滑ります。

0 SideForce LとSモデル

0 SideForceへの要望として、すでに有る取り付け穴が、ロングアーム用なので、これに合うアームを作って欲しいというのはずっとありました。また、SL-1200シリーズに使えるようショートアームへの要望も同時にありました。そこで写真のように合計3種類の長さを準備しました。これらはDJ用のスクラッチには向きませんがMITCHAKU-Zのヘッドシェルは、向くのかも知れません。VestaxのDJ用プレーヤーにはピュアストレートアームが使われていて、逆回転をしても音飛びは、起こりにくいそうです。私はVestaxからアンプ設計の依頼をされたこともあり、そこには耳の良いプロの兄弟ギタリストが居たので、音の良さからもピュアストレートを採用したのではないかと思っております。

参考までにトーンアームのデーターです。ノーマルタイプはターンテーブルセンターからアームの支点の距離は232mm±3o(アンダーハング18mm)、ロングタイプはセンターと支点間は299o±4o(アンダーハング18mm)、ショートタイプは215mm±2o(アンダーハング19mm)です。いずれもレコードの半径90mmでトラッキングエラーが0になる設計です。価格はロングタイプは付属ヘッドシェルがMITCHAKU-Lで¥200,000、ショートタイプはノーマルと同じで¥178,000です。

故江川三郎氏から聞いた話ですが、WE-308Sを設計した故田中栄氏は、アームを曲げることの弊害についてはよく分かっていただそうです。ここからは私の推測ですが、市場の常識からしてさすがにピアストレートにするまでには決心がつかず、半分の角度に抑えた設計にしたのではないかと思います。一度だけ田中栄氏と電話で話したことがあるのですが、そのWE-308Sの音を聴いて私はナイフエッジをほんの少しだけ、きつくしたのですが、そのことを話ししたら、「あーそんなことをしてしまったんですか?」と言いながら「でも音は良くなったでしょう」と言いました。つまり感度よりも強度の方が大事だということもよく分かっていたのです。インサイドフォースは特に難しい話ではないのですが、意外にも勘違いしている人が多いので、記事にしました。

以下は雑誌用の広告ページなので参考にしてみてください。ではよろしくお願いいたします。(2020年10月22日)

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