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DACにおけるI/Vの動作を検証する 中川 伸

 多くのDACは以下の左の様な回路で電流→電圧変換をします。殆どは市販のオペアンプを使うので、その動作を検証してみました。620Ωを変換抵抗に見立て、ゲインは−1で、出力電圧は2.2Vrmsです。電流検出はカレントプローブで、と思ったのですが、誰しもが検証できるよう、電源に1Ωを入れることで普通のプローブでも見えるようにしました。写真左で上の波形が-側で、1番下が+側で、真ん中が出力波形です。以上からB級の半波動作をしていることが確認できます。他のオペアンプでも似たような傾向です。因みに右の写真はフィデリックスがオーディオ用に開発したクラスAでオールJFETのディスクリートオペアンプです。これはCAPRICEのDACにも使われていて、ご覧の通りサイン波動作です。

 そもそもオペアンプはアナログコンピューター用として開発されたものです。演算増幅器とはその名残で、増幅、加算、減算、積分、微分をします。他に対数変換、逆対数変換変換、乗算、割算といった用途なので消費電流を節約したクラスBです。初期のオーディオ用オペアンプはモートローラのMC1303PやフェアチャイルドのuA739で、いずれもがクラスAだったことは大いに注目すべきです。1969年にソニーでもオーディオ用オペアンプを作ろうということになり、私が担当となって手掛けました。当時の面積換算はトランジスタ3kΩ、ダイオード2kΩとし、抵抗も含めてトータルで100kΩ以下の回路サイズという条件でした。増幅素子はNPNだとhfeが100程度、PNPはhfeが1程度、キャパシタはほぼ入れられません。先ずはMC1303PとuA739でPHONO EQを試作しましたが、特に魅力は感じませんでした。
 その頃にソニーが試作したJFETでTX130(後に正式名称2SK35で形状が変わり2SK43)の真空管的な音にすっかり魅了されたので、オーディオ用オペアンプは立ち消えました。この頃までの私は真空管が好きでトランジスタアンプの音には馴染めず、プリはマランツ7タイプでパワーはムラード型6BX7のPPを自作して使っていました。トランジスタアンプは弦楽器や女声が乾燥して聴こえ、艶が欲しいと感じました。特にパワーアンプはクロスオーバー歪みのせいではないかと考え、クラスAのDCアンプを個人的に作りました。
 初段はTX130の差動、2段目はJRCの2SA621の差動、出力段は2SA527と2SC895とTX183(後に正式名称2SD88 ?) 2個を組み合わせた準コンプリメンタリーの10W+10Wでした。差動2段目の片側を捨てたオーソドックスな回路構成です。1969年のことですから、クラスAのDCアンプはおそらく世界初だったと思います。この圧倒的に歪の少ない透明さと艶によって真空管とはおさらばになり、TA-1120Fのイコライザー部にもTX130の差動アンプを使用しました。この回路は電源電流が一定の動作なので、あたかもクラスAのBTLかのようです。これも1969年のことです。この後、スタックスでクラスAのDCアンプDA-300を設計し、これがマークレビンソンのML-2が生まれるきっかけとなったそうです。

 私はその巨大な25Wのアンプを見て、これを高性能のまま小型化するにはどうしたら良いかを考え、クラスAでリアルタイムBTL方式のLB-4ができました。電流変動がキャンセルされるので電源を小型化でき、リモートセンシングと相まってスピーカーを強力ドライブします。これは1980年のことで、この原理を応用したのがCAPRICEで、世界的にも珍しいクラスAでBTL動作のDACです。
 さて本題に入りますが、クラスBのオペアンプは交互に休むプッシュプル動作なので、クロスオーバー歪やノッチング歪が懸念されます。しかし、より重要なのは電源電圧に半坡の歪み波形が加わることです。普通のレギュレーターのインピーダンスは約10mΩなので、前記測定条件の100分の1が電源端子に加わることになります。オペアンプは入力信号を増幅し、電源の影響はSVRRによって受け難いことになっていますが、電源の違いが音に出ることはよく知られています。この半坡の歪み波形が前段の高感度な部分に入り込み、増幅されて出力されるからです。しかし、多量のNFBが掛かっているのでサイン波による測定ではほぼ問題は隠れてしまいますが、音を聴けば歪み電圧の悪影響は判ります。
 一般的にはオペアンプを選択しようとするとカタログスペックでノイズや歪やスルーレートを重視しがちですが、非常に大切なのが実はこのSVRRです。SVRRが不充分だからこそ電源の影響を受けるのです。測定信号では電源電流は変動しませんが、音楽の強弱では電源電流が変動するので、アタック音や躍動感といった音楽が持つ生命力とは大いに関係します。特性が良いから音も良い筈だとは言えない最大の理由がここにあります。クラスAだと半坡の歪み波形にならず、電源電流も変動せず、更にBTL化すると波形までをもキャンセルする効果があるので良いことずくめです。
 コンピューターの世界ではよく知られているボトルネックですが、処理の最も遅いところがネックと言う意味です。私に言わせればDACのネックはI/V変換のアナログ部です。サンプリング周波数やビット数といったスペックはDACチップで決まり、最新型だとかなり安価であっても高スペックなものが有ります。しかしI/VがクラスBのオペアンプ、たとえばNE5532やNJM4580といった安価なものでも特性は立派に出せますが、その音質がネックになります。ここで誤解無いように付け加えれば、オペアンプにとってI/Vは特に負担が重い条件だと言っているのであって、何処に使っても悪いということではありません。要は使い方ですが、クラスBの方がクラスAに勝る点は理論的に1つも無いです。ちなみにクラスAのCAPRICEは1号機から384kHz(PCM)も11.3MHz(DSD)も動かせます。クロックが96MHzと高いからです。
 面白い話ですがパイオニアがエクスクルーシヴブランドでクラスBのM3とクラスAのM4を同時に出しました。クラスAが良いと思いきや当初の評判は5分5分でした。今ではM4が圧倒的に高評価です。クラスBの方が多少荒っぽくても派手に聴こえることは何度も経験していますし、コントラバスもゴリゴリ感が強調されるので好まれる場合はあります。クラスAだと歪みが無いので大人しく地味に聴こえたりもします。ぱっと聴くだけでは分からないことはオーディオではよくあることです。料理でも一口目は濃い味が良くても、食べ終わる頃は濃すぎると感じることに似ています。
 物量を投じて電源インピーダンスを半分にすることと、回路に工夫を凝らしてSVRRを6dB高める効果は同等です。LEGGIEROの回路は全ての段が一定電流になる構成になっていますし、最終段の動作が前段を揺さぶらないよう全段を分離する工夫もしています。物量をつぎ込む前に知恵を使うのがフィデリックスの流儀です。(2016年9月21日)

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