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オーディオアンプにおけるノイズの話2 中川 伸

以下の話はMCカートリッジなどのローインピーダンス用に限った話で、コンデンサーマイクやコンデンサーカートリッジなどのハイインピーダンス用では電流性ノイズが加わるので適合しません。また1/fノイズ領域の低い周波数も考慮していません。

さて、1969年頃の本でFETの雑音は、Vn=√(4KTBR)のRを0.6/gmに置き換えた式を見ました。その頃、ソニーの試作FETでTX130(後に正式名2SK43となり、東芝の2SK117に近い)を使ってMC用ヘッドアンプを作ると、割とよく合いました。でも、なぜ1ではなくて0.6なのかは今もって分かりません。もしかすると本を書いた人も、私もTrueRMSではなく、Averageで測り、しかもメーターの揺れ幅の低い側で読んだのかも知れません。でも理論値は1だと思います。

一方、トランジスタは1/gm相当の抵抗による熱雑音が先ずは発生します。gmは2.6mA時に約100mS(シーメンス)なので抵抗値換算は10Ω付近、1.3mA時では20Ω付近になります。1.3mAを2パラにすれば10Ωなので、合計が2.6mAならシングルでも2パラでも同じ値になるので、これだけならパラにする必要はないと言えます。

しかし、実際にはトランジスタのベース端子と半導体内部の実動ベースとの間に生じるrbb’(ベース広がり抵抗)の熱雑音が加わります。低雑音化するには、先ずはこれの小さいトランジスタを選ぶことですが、それでも得られる値には限界があります。そこで、より低い値にしたい場合には、トランジスタを並列接続することによってこのrbb’を下げることができます。これは2パラだと1/2に、4パラだと1/4に減ります。rbb‘のことは入力換算雑音電圧が-150dBVよりも多くて構わない雑な話なら、まあ考慮しなくても良いですが、それよりも小さくしたい場合は問題になるので、必ず並列接続しなくてはなりません。

1976年4月にFIDELIXで発売したLN-1はrbb‘の小さいトランジスタをPNPとNPNで選び2SB7372SD786、片チャンネルで合計10パラにすることによって初めて-157dBV(等価雑音抵抗=5Ω)を達成しました。これを更に、左右チャンネルをパラにして2台使ったモノラル接続として使うと-160dBV(等価雑音抵抗=2.5Ω)になり、熱心なユーザはヘッドアンプをこのようにして使う方々もいらっしゃいました。ここで話は一旦脱線します。

1976年の2月頃に軽井沢のプリンスホテルで新日本フィルを小泉和裕氏による指揮で生録が行われました。オープンデッキなどを持った100人ほどが集まりましたが、全員がマイクを立てると混乱するので、3つのライン信号が用意されました。オーディオラボライン(故菅野沖彦氏によるノイマン U-87)、新日本フィルライン(故江川三郎氏によるアイワ VM-17)、ソニーライン(大槻建氏によるAKG C-414)です。音源に近くて生々しいのが菅野氏、コンサートホールのような広い臨場感は大槻氏、その中間的なのが江川氏でした。リハーサルを聴いて自分の好みのLINEに接続するのですが、これが何とほぼ3等分されました。

生録でさえもこの通りですから、これがオーディオの面白いところです。ここでの江川氏の試みはリボンマイク内部にあるステップアップトランスをジャンプさせ、アンプで増幅するというものでした。このときに使われたのが試作LN-1で、これを左右パラ接続して2台で増幅しました。私はこの江川ラインのスタッフとして参加したので、このリボンマイクによる腰の強い厚めの立体感と、エッジの強調され過ぎない鮮明な音は、今でもハッキリ覚えています。今、リボンマイクは徐々に人気上昇中だそうです。

脱線から戻ります。私が所属しているCQ出版の電子回路研究会の例会でのことです。筑波の研究所でポルツマン定数の少数点以下の9桁10桁目を測定している所へ見学に行きました。何Ωで測定しているのかを尋ねたらなんと1Ωという答えでした。つまり0Ωと1Ωのノイズ差を長ーい時間をかけ続けて解析しているのだそうです。オーディオ用途のポルツマン定数なら1.38×10e-23で困ることはありません。

このようにノイズ発生の根本原因を分析すれば、あくまでも抵抗ですから、単純に2台のアンプが並列になれば3dB減り、2台のアンプが直列的になる構成、例えば差動受けやバランス受けの様な場合は3dB増えます。このように等価雑音抵抗で考えるのが最も勘違いが少なく、NF(ノイズフィギュア)や他の方法で考えると勘違いし易いです。実際に、勘違い理論をネット上で公開している所もありますが、頭で考えるのではなく、測定さえきちっと行えば即座に間違いには気付くことでしょう。当然ながら間違っていれば理論値とは合いませんし、充分に詳しくなけば-150dBVより優れた性能にはなりません。ちなみに市販のローノイズオペアンプでさえも-144dBV程度なら普通に実現可能です。

さて1977年頃でしょうか?色んなヘッドアンプが発売されましたが、入力に並列帰還されるタイプは測定が厄介です。出力ノイズは入力ショートで最も大きくなるし、入力インピーダンスも測りにくいほどに低いので、独自の解釈で測って高性能ぶりを謳っていた製品もありました。 入力インピーダンスの測定方法は、先ずは想定される入力インピーダンスよりも充分に高い抵抗を通じてアンプを適正レベルで動作させます。アンプの入力と並列に抵抗を入れ、ゲインが半分になった値が入力インピーダンスになります。そこで次は入力インピーダンスよりも十分に低いインピーダンスで駆動し、電圧ゲインを測定します。

入力ショート時の出力ノイズをゲインで割って入力換算雑音電圧を計算します。カートリッジのインピーダンスは、直流抵抗を計り、それをインピーダンスと考えてほぼ合っています。上記の両者を合わす必要は全くありません。フィデリックスではむしろギガオーム(GΩ)という超ハイインピーダンス受けを行っており、以下からダウンロードすることで音の比較も可能です。ちゃんとした装置で聴き比べれば、細やかな音は1GΩの方がよく出ることが分かると思います。 1GΩ入力の音はIPANEMA 1GL、 330Ω入力の音はIPANEMA 330Lです。以下は間もなく発売予定のMC Head Amplifire LIRICO(リーリコ) で、1GΩ入力と共に確かな技術により入力換算雑音電圧は-156dBVという少なさです。 (2019年4月10日)

    
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